−『フラットライナーズ』−

 学のない商売女が金持ち男の庇護を受けて成り上がる様を描くという『マイ・フェア・レディ』のパクリで、何故か90年に世界中で大ヒットした『プリティ・ウーマン』(売春婦)。それに主演したジュリア・ロバーツは一躍スターダムにのし上がり、その余韻が醒めやらぬうちに、さっさと公開された彼女の出演作が、『フラットライナーズ』である。

 公開時共演(本当の主演)のキーファー・サザーランドやケビン・ベーコンら3人が揃ったポスターとは別に、各スターの顔のアップを使ったポスターが作成され、そこでジュリアのポスターには「今最もプリティな女」(今最も売春婦)と、セクハラコピーが踊る。ちなみに映画のコピーは「心臓停止20秒・40秒・4分25秒、何が起きたんだ! あまりにも危険な賭けに挑む5人の医学生」で、人間が死んだ瞬間に何が起きるのかを体験しようとする5人の熱心な(バカ)医学生達のストーリーだ。こちらは丹波哲郎が関わっていないからギャグにはなるまい、きっと5人の臨死体験が驚異的な視覚効果によって描かれ、彼等が死後の世界の超自然的な怪物に脅かされるとか、臨死体験を通じて各々が禁断の領域に踏み込みがちな現代医学に倫理を取り戻すとか、至極まともなストーリーを期待したものだ。

 ところがさすが頭のキレるマイケル・ダグラス製作+ジョエル・シュマッチャー監督(『セント・エルモス・ファイアー』)。キワモノ的な内容を扱いながら、ドラマチックで感動的な作品にしようと、映画はとんちんかんな方向へ走り出す。

 5人は各々薬品を注射して心臓を停止させ、脳死に至る寸前に仲間に甦生してもらう。そこに出る死後の世界は、当人達の記憶とありものの風景のフィルムをつないだだけのもの。あれ?

 ところが甦生後、ケビンやキーファーは都市の暗闇で不気味な子供に襲われ、パニック状態になる。原因はあっさり判明。襲って来た子供達は、彼等が子供時代にいじめていた子供達など、過去の悔やまれる記憶だった。過去の罪悪に対抗する方法は? 謝罪することさ!

 かくして死の世界がどうのこうのといった話は脇に追いやられ、後半は各人の過去の罪への贖罪の旅が延々と描かれる。おまえはニューシネマか! ジュリアは苦悩の末、父の幻影と和解する。黒人少女を苛めたケビンは、結婚して家庭を持った彼女の家に押しかけて謝る。しかしキーファーを襲う幻影の少年は、過去に彼によって樹の上から転落死していた。かくして一人心の癒えないキーファーは自殺を図り、その幻影の中で少年に謝罪し、命を取り留めてメデタシメデタシ。……ってうまくまとめたつもりだろうが、結局臨死体験云々は何の関係も無く、誰もが体験したであろう、観客のノスタルジックな思いをくすぐっただけで映画は自己完結し、さっさとエンドマークへ逃げてしまったのである。


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